ブログ・コラム
2023.09.03
暮らしを包み込みつつ居心地と環境を生み出す中庭のある暮らし。
- カテゴリ:
- 設計の事・デザインの事
質の良い設計とデザインで
人生の潤いを生み出す暮らしの空間を丁寧に。
魅力あふれる中庭を計画する事で
暮らしの環境も風景も
随分変化します。
※コの字型配置で計画した広大な中庭を風景として味わう和モダンの家
中庭とは、
その名の通り建築物の内部に位置して
周りを壁や建物などが
囲うように設けられた庭の事。
※コの字型配置で計画した広大な中庭を風景として味わう和モダンの家
一般的な庭は
隣家や道路に面することが多いため、
隣家や道行く人の視線が気になり
リラックスできる空間に
しづらいというデメリットがありますが、
中庭ならその心配は少なくなります。
※コの字型に配置した中庭の回遊間に「扇型」の窓を計画して見える方向、視界をデザインした過去の設計事例
家族の憩いの場として、
住まいづくりに貢献してくれる空間。
※コの字型の中庭に面して設けた広縁(縁側)からの眺め・和を基調に繊細さを整えた空間
※コの字型の中庭も和のモダンな佇まいとしてデザイン設計を施した外観
しかしながら
そこにもメリットとデメリットが存在します。
自分たちにとって
どのような環境が良いのか
検討する必要があります。
中庭のデメリットとしては、
雨水が溜まりやすいことや、
窓が多くなることで
断熱性能が落ちてしまう
可能性があることなどがあげられます。
そしてスペースの問題。
意味のある中庭となるよう
ある程度の庭のスペースを
確保するのにも
間取りにも工夫が必要以上になります。
いずれの点も
設計の工夫によって対策できるので、
大きく心配する必要はないと言えます。
中庭のメリットですが、
光と風で明るく開放的に中庭があれば
表面積を増やすことができ
開口部を造りやすくなります。
大きな開口部を中庭側に設ければ
光や風が取り込みやすくなることは
ある意味で
大きな魅力です。
周囲を気にすることなく
屋内に光と風を取り入れられるので、
自然との距離が近づき
開放感にあふれた癒しの住まいづくりが叶います。
リモートワークが増えた今、
ちょっとした時間に
気分転換ができるような
快適な仕事環境をつくるうえでも
高い効果を発揮してくれます。
安心のプライベート空間建物で囲われた中庭は、
屋外でありながら
隣家や道行く人の視線を気にせず
過ごすことのできる完全プライベートな空間です。
屋内からは目が届きやすく
外からの視線を阻むことができるため、
小さなお子さんを遊ばせる場所としても安心ですし、
大きな窓を中庭側に設置して
通りに面する側の窓を小さくすれば
採光や通風を保ちつつ防犯にも効果的。
隣家との距離がどうしても近くなりやすい都市部でも、
開放的でありながら
プライバシーを守ることのできる
リラックス空間を得るのに適しています。
計画内容によって
マルチに楽しめる庭は
周囲を気にせず寛ぐことができるため、
屋内の延長として
気兼ねなく過ごすことができるのも
中庭ならでは。
例えば、バスルームと隣接するように
中庭や坪庭を計画して
バスコートのように楽しむのも一興。
※バスルームの窓に面した場所へバスコート(中庭)を設計提案した過去のデザイン事例
※夜の入浴時間の風景・窓の外を心地よく眺めるバスタイムを日常に提案
※リビング・廊下・和室とコの字型に整えた中庭を持つ家・見える方向によって庭を整えた洋風の家での設計事例
植物や芝生を植えて
自然を楽しむのはもちろん、
テラスのように家の床と中庭の素材を合わせて
ひとつづきの空間のように演出し、
さらなる開放感を楽しむのも良いかと思います。
※リビング・廊下・和室とコの字型に整えた中庭を持つ家・見える方向によって庭を整えた洋風の家での設計事例
工夫次第で、
第二のリビングとして
家族が集まる場所、
D.I.Y.のような趣味を楽しむ場所、
自然を愛でる場所、
天気の良い日のリモートワークの場所など、
多目的スペースとして
楽しむことも可能です。
中庭のある家の間取りでは
実際に中庭を計画するにあたり、
どのような建て方があるのか?。
中庭は大きく分けて3つのタイプがあります。
それぞれに特徴がありますので、
土地や予算の条件等も考慮しつつ、
どのタイプが
自分たちの暮らしに良い意味を生み出すのか
考えてみて下さい。
ロの字型の中庭。
ロの字型の中庭の特徴は、
その字が現す通り、
庭が壁に全部囲まれていることがあります。
完全に閉じた形になるので、
プライバシーを重視したい方に
ピッタリのタイプとなります。
その上、
太陽の光と自然の風を
感じることが出来ますので、
外部空間に居ながら
人の目を気にする必要がない自由を味わえます。
ただ・・・ロの字型の中庭は、
全方向壁に囲まれているので、
ある程度の広さがないと、
少し閉塞感を感じてしまうかもしれません。
そういう意味では
土地の広さは必要になってくるタイプです。
コの字型。
コの字型の中庭の特徴としては、
まずその字の通り
庭の三方が建物に囲まれているということがあります。
一方が外部に対して開放されているので、
先ほどご紹介したロの字型の中庭よりは
開放感を感じる事が出来ます。
そして一方が空いていることから、
光や風も取り入れやすいので、
中庭としては
植物を育てやすいというのも特徴です。
適度なプライバシーと
開放感の両方が欲しいという方に
お勧めのタイプ。
プライバシーをより確保したい場合は、
外壁がない部分に目隠しの植物を植えることも出来ますし、
敷地の塀を少し高めにするという方法もあります。
※和室から眺めるモダン和風の中庭・プライバシーを保つ工夫として道路側に提案・坪庭的なサイズ感でのデザイン
※夜の時間になる事で格子の隙間から灯りの漏れる風景が生まれるデザインに
※デザイン壁で囲う事でプライバシーを確保した中庭のある家
※夜の外観・中庭を囲うデザイン壁の格子から灯りが漏れる事で生まれる佇まいの提案も設計のカタチ提案
L字型。
L字型中庭は、
その字の通りL型に配置された
住宅に接するタイプの中庭です。
先ほどご紹介したロの字型、
コの字型と比べると
2面しか囲まれていませんので、
開放感は抜群にあります。
また住宅の形状としても
計画しやすくなりますし、
土地の条件としても
広さをそこまで必要としないという
メリットもあります。
ただ、L字型の住宅のつくり方によっては、
普通の庭との違いが分かりづらく、
中庭としてのメリットを
あまり感じない可能性もあります。
建物のデザインと庭の使い方には
より一層の工夫が必要なタイプとなります。
外構と絡めてプライバシーの確保を考えるという
方法もあります。
それぞれのポイントを押さえることで、
中庭を計画する上でデメリットになりそうな部分を、
メリットに変えていくことができます。
中庭のある家を快適にするための
ポイントですが、
窓の位置や大きさに配慮する事。
これは通常の庭等を計画する場合にも
いえる事ですが
庭に面する窓の位置や大きさは、
室内環境の快適さに大きく影響します。
小さい窓にした場合は、
中庭からの光を
取り入れにくくなりますし、
風の通り道としても
十分ではなくなります。
中庭のある家で開放感を味わいたいのであれば、
意味のある方向と場所に
窓はできるだけ
大きくすることをおすすめします。
そのうえで「窓のカタチ」にも工夫を添える事。
そういう計画の有無によって
中庭の優位性も随分変わります。
そして自然に近い風景や
居心地の良さを生み出す「視界」の価値を、
家の中から楽しむことが出来ます。
窓の性能や開閉の有無についても
よく考えるように。
そして生活と暮らしの動線を考えた
間取りにする事。
中庭を持つ家の間取りとして
懸念されるポイントは、
中庭を家の中心に持ってくる事が多いため、
生活動線が長くなる恐れがあるということです。
家事動線やその他の生活動線を
普段の暮らしからしっかりと想定して、
室内のデザインを考える必要があります。
例えば家事動線。
キッチンと洗面、
洗濯室のような家事関連の用途の室を
なるべくコンパクトにまとめることで、
家事をする際のストレスが
かなり軽減されます。
またそれぞれのプライバシーが大事な
個室もまとめるということが必要になります。
雨水の排水設備を整える中庭は
家の中心に近い位置に配置する事が多いので、
排水設備計画をしっかり行わないと、
家の内部に水が入ってくる
ということにもなりかねません。
雨が降った場合などに、
ある程度は中庭の地面に
染み込んで吸収はできますが、
昨今は集中豪雨が増えてきています。
地面に染み込む以上の雨が降った場合のことを考えると、
雨水桝の設置は不可欠になります。
また、中庭に設置した雨水枡は、
家の床下に排水管を通して
外部に直接排水できるように計画することが大切です。
安心感と明るく風通しの良い
開放感を兼ね備えた中庭は、
従来の庭以上に心地よい、「ちょうどよい」空間づくりに最適です。
くわえて、
二世帯住宅の場合も
双方の居住空間の間に中庭を設ければ、
緩やかに独立しつつ
お互いの家族の気配も感じることのできる
「ちょうどよい」距離感を保つのにも
良い効果が期待できます。
また、一緒に住む家族といえども
理想のライフスタイルは
それぞれ異なる場合も多いですから、
そんなとき、
閉じていながら開放的であり、
屋外でありながら屋内の延長であり、
家族がお互いのプライバシーを尊重しつつ
それぞれの様子が見えやすい、
そんな相反するように
見えるいくつもの「間」を
とりもつ中庭のある家ならば、
家族に対しての「ちょうど良い」の
選択肢になってくれるかもしれません。
中庭での過ごし方は
間取りやデザインによって決まってきます。
どのようなデザインがあるのか、
そしてそこでどのような過ごし方ができるのか。
家族のライフスタイルにあった
計画になるよう
中庭を持つ意味を十分に・・・・・。
そんな住宅を考える事で
家はもっと「自由を持つ空間」に
良い意味で変化すると思いますよ。
場所を決めつけない
フレキシブルな空間の存在価値、
暮らしを豊かにする「ゆとり」として
中庭を検討のひとつに。
やまぐち建築設計室 建築家 山口哲央